クリニック開業の流れとスケジュール|資金や準備期間の目安・注意点を解説
2025年12月02日
クリニックを開業する際、事前に準備しておくべきことや具体的な流れ、手続きなどを把握しておく必要があります。開業するためにやらなければならないことは多岐にわたるため、基本的なスケジュールに沿って進めていくことが大切です。 この記事では、クリニック開業の流れとスケジュール、必要な資金の目安、開業の際の注意点を解説します。
クリニック開業の流れとスケジュール
クリニック開業は、一般的に準備期間に1年半〜2年程度を要する大がかりなプロジェクトです。スムーズな開業を実現するためには、事前の準備と具体的なスケジュールに沿った実行が不可欠です。
開業までの主な流れと目安の期間は以下の通りです。
時期(開業前) | 項目 | 概要 |
18ヶ月前〜 | 経営理念・方針決定 | 開業目的、診療方針、ターゲット患者層などを明確化します。 |
16ヶ月前〜 | 事業計画書の策定 | 経営基本計画、資金計画、収支計画など、具体的な数値に落とし込みます。 |
12ヶ月前〜 | 土地や不動産の選定 | 診療圏調査を実施し、集患に有利な立地を選定します。 |
12ヶ月前〜 | 開業資金の調達 | 自己資金の確認、金融機関への融資申請、補助金・助成金の情報収集を行います。 |
12ヶ月前〜 | 医療機器の選定・導入準備 | 診療方針に基づき、電子カルテ・レセコンを含む必要な医療機器を選定し、納期を確認します。 |
6ヶ月前〜 | 設計・内装工事着手 | 患者・スタッフの動線、感染症対策、建築基準法などを考慮して設計します。 |
3ヶ月前〜 | スタッフ採用・研修 | 募集・選考を行い、開業前に研修を完了させることが理想です。 |
3ヶ月前〜 | 集患のための広告対策 | ホームページ制作、看板設置、内覧会開催など、認知度向上を目指します。 |
3ヶ月前〜 | 税理士・社労士の選定 | 税務・労務に関する専門家のサポート体制を構築します。 |
1ヶ月前〜 | 開業申請・各種届出 | 保健所への「診療所開設届」や厚生局への「保険医療機関指定申請書」などを提出します。 |
それぞれ見ていきましょう。
【18ヶ月前〜】経営理念や方針を決める
まず最初に、開業しようとしているクリニックの経営理念や方針などを決めることが大切です。
クリニックの経営理念は開業する目的や方向性を明確にし、開業後のスタッフの行動指針となります。経営理念や方針に沿った医療を提供してもらうことで、結果的に患者の安心感や満足度向上にもつながります。
【16ヶ月前〜】事業計画書を策定する
次に、自院の経営理念や方針を実現するための事業計画書を策定します。
事業計画は、開業に伴うリスクを最小限に抑えるために必要不可欠です。事業計画書が曖昧では、将来的に事業が失敗するリスクが高くなる可能性があります。
経営基本計画・資金計画・収支計画など、具体的な数値に落とし込むことが大切です。
【12ヶ月前〜】土地や不動産を選ぶ
事業計画書を策定したら、クリニック開業に適した土地や不動産の選定を行います。
クリニックの土地や不動産選定は、集患に大きく影響するため、空いた土地や物件があったからといって性急に決めないことが大切です。
地域住民の目につく場所にあるか、通院しやすい場所か、生活動線上に位置するかなどを見極め、開業地を選定しましょう。
【12ヶ月前〜】開業資金を調達する
クリニック開業における資金調達方法には、以下のようなものが挙げられます。
- 自己資金
- 助成金
- 融資
開業するための土地や不動産、医療機器にかかる費用によっては、自己資金でまかないきれないケースもあるでしょう。その場合、金融機関などから融資を受けるための審査を通過しなければなりません。
クリニックを開業する際、融資以外にも、雇用や設備投資などの条件を満たすことで給付される助成金や補助金があります。
- 日本政策金融公庫
- 民間の金融機関
- 福祉医療機構
- 医師会や地方自治体など
それぞれ、融資を受けるための条件や金利などは異なるため、開業コンサルタントや税理士と連携し、最新の情報を確認しながら慎重に選びましょう。
【12ヶ月前〜】医療機器を選定する
自院に適した医療機器を選定し、導入準備を進めます。
医療機器の選定では、自院の診療科目や方針、開業する立地の医療ニーズなどを考慮する必要があります。開業にあたって導入を検討する必要があるのは、主に以下のような医療機器です。
- 電子カルテ
- レセコン
- 予約システム
- PACS
- X線一般撮影装置
- エコー装置
- 内視鏡装置
- 心電図
- 自動精算機 など
スムーズな開業のためには、医療機器の納期が開業日に間に合うようなスケジューリングが重要です。医療機器のサイズ確認やデモンストレーションなどの時間も考慮しつつ、メーカーとの交渉を進めていきましょう。
【6ヶ月前〜】設計・内装工事に着手する
クリニック開業の不動産の契約を交わしたら、設計・内装工事に着手します。クリニックの設計では、常に「患者のためにどのような医療を提供するのか」を念頭におくことが大切です。
設計段階では、患者だけでなくスタッフも移動しやすい動線になるよう、しっかり検討する必要があります。感染症対策として、人との距離を確保できるレイアウトを考慮しておくと良いでしょう。
設計・内装工事では、建築基準法やバリアフリー法なども関わってくるため、依頼する設計事務所や施工会社の実績を確認しておくと良いかもしれません。
【3ヶ月前〜】スタッフを採用する
医療機器の選定後、スタッフの採用活動にとりかかります。開業の2〜3週間前までには、スタッフの研修や手続きが終わっているのが理想的でしょう。
クリニックの規模に応じ、医療事務・看護師・薬剤師・検査技師・放射線技師・理学療法士など、必要とする業種や人数を決めます。また、給与や福利厚生といった採用条件も検討します。
経験やスキルをもとに、以前の勤務先で一緒だったスタッフに声をかける場合、退職時期などを考慮して早めに声をかけておくと良いでしょう。
即戦力となる新規スタッフを採用する場合は、以下のような方法で求人募集します。
- ハローワーク
- 人材紹介会社
- 求人サイト
- 広告媒体
- ホームページの採用情報 など
上記のうち、人材紹介会社や求人サイトは手数料が発生するため、採用のために費用はどの程度かけられるのか、よく検討しましょう。
【3ヶ月前〜】集患のための広告対策を行う
クリニックを開業し、新規の患者を確保するために、広告対策を行います。集患のための対策として、以下のような方法があります。
- ホームページ制作
- 看板
- チラシ
- ポスティング
- 新聞広告
- 地元の情報誌
- 地域のフリーペーパー
- 内覧会 など
インターネットが普及している現代では、クリニックのホームページ制作は必要不可欠だといえます。クリニックの理念や診療方針、治療内容、診療時間、医師やスタッフのプロフィール、院内の写真などを掲載しましょう。
看板や街中の広告といったオフライン広告は、特に地域住民や高齢者への認知度拡大に効果的です。具体的な種類や費用、効果的な活用法を解説した資料を参考に、集患戦略を立ててみましょう。
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広告は、それぞれ費用や効果が異なります。どの程度の予算をかけ、どのような広告を活用するか、よく検討しましょう。
【3ヶ月前〜】税理士・社労士を選定する
税務・会計分野に対応できるスタッフがいる場合、税理士の選定は必須ではありません。しかし、医療業界の知識と経験が豊富な税理士は、制度改革などにも対応できるため、税理士を選定してサポートを受けたほうが良いでしょう。
また、従業員を雇用する場合、労務関係の専門家である社会保険労務士も選定しておくと安心です。
将来的に医療法人化を視野に入れているのであれば、あらかじめ対応可能な税理士を選定しておいたほうが良いでしょう。
【1ヶ月前〜】開業申請をする
クリニックを開業するために、保健所に「診療所開設届」を提出します。
開設届は、クリニック開設後10日以内に届け出るよう、医療法によって定められています。とはいえ、開設届で行えるのは自由診療のみなので、保険診療を行うには別途「保険医療機関指定申請書」を厚生局に提出しなければなりません。
ほかにも、開業にあたって提出しなければならない書類は多岐に渡るため、適宜、コンサルタントなどの専門家にサポートしてもらう必要があるでしょう。
クリニック開業に必要な資金
クリニック開業に必要な資金は、立地エリアや診療科目などにより異なりますが、5000万〜1億円程度が目安だとされています。このうち約1000万円程度を自己資金でまかない、残りを融資で補うケースが多いです。
開業資金の内訳は、主に以下のような項目に分けられます。
- 建物・内装工事費:立地や物件形態(戸建て・テナント)により大きく変動
- 医療機器代:リース契約で月々の支払いとなるのが一般的
- 広告費や各種申請費用
- 運転資金:開業直後の赤字補填やスタッフ給与など、6ヶ月分〜1年分を目安に確保
- 医師個人の生活費など
医療機器代はリース契約で初期費用を抑えるのが一般的ですが、初期費用と運転資金のバランスを考え、資金配分するとよいでしょう。
多くの開業医が実際にどの程度の費用をかけているのか、最新の調査レポートをご確認いただき、ご自身の資金計画の参考にしてください。
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クリニックを開業する際の注意点
クリニックを開業する際、以下の3つに注意が必要です。
- 開業する土地や物件は自院に適しているか良く検討する
- 予算は負担にならないかよく検討する
- 導入する医療機器は自院に必要か
それぞれ解説します。
開業する土地や物件は自院に適しているか良く検討する
クリニックを開業する際、事前に開業予定エリアの診療圏調査を行い、土地や物件は自院の方針や理念に適しているか、よく検討する必要があります。
開業予定のエリア周辺に、競合となるクリニックが立ち並んでいるようであれば、集客に苦戦する可能性が高くなるでしょう。
診療圏内にどの程度の競合クリニック数があるのか、医療ニーズはあるか、1日にどのくらい患者数が見込めるかなどを事前に調査することが理想です。
また、物件契約の際には、電力容量や医療機器の搬入経路、床の加重制限など、医療機関特有の制限がないか細部まで確認し、後のトラブルを防ぎましょう。
予算は負担にならないかよく検討する
クリニック開業にあたって、予算が負担にならないかよく検討することが大切です。
特に、立地や不動産にかかる費用は、開業後も定期的に支払わなければなりません。相場よりも高くないか、交渉の余地はないか、戸建てよりもテナント開業にできないかなど、資金を抑える方法をいくつか考えてみましょう。
開業して資金繰りに困らないためにも、初期費用と運転資金のバランスを考え、資金配分するとよいでしょう。
導入する医療機器や電子カルテ・レセコンは自院に必要か
開業にあたって、コストのかかる医療機器は自院に必要か、よく検討しましょう。
開業エリアの医療機関にCTやMRIがすでに導入されていれば、地域連携でまかなえるため、自院では必要最小限の医療機器の導入で済むでしょう。自院のみで診療を完結する場合、高額な医療機器は購入ではなく、リースを利用するのも有効な手段です。
また、開業を機に、電子カルテを導入するクリニックも少なくありません。
これまでは院内にサーバーを設置する「オンプレミス型」電子カルテが主流でしたが、近年、クラウド上のサーバーを利用する「クラウド型」が主流になっており、初期費用を抑えやすく、災害時のデータ保全に優れている点がメリットです。
- レセコン一体型/ORCA連動型: どちらの形態が自院に適しているか。
- 操作性・UI/UX: 日々の診療効率に直結するため、直感的に使えるか。
- 周辺システム連携: Web予約、Web問診、オンライン診療など、クリニックのデジタルの効率化に不可欠なシステムとスムーズに連携できるか。
電子カルテを選定する際は、他のクリニックがどのような製品を選び、どの程度利用しているかといった市場の動向を知ることが失敗を避ける近道です。最新の使用率調査レポートを参考にしてください。
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クリニックの開業に関するよくある質問
医師会への入会は必要?
クリニックを開業した場合、必ずしも医師会に入会する義務はなく、加入は自由です。
とはいえ、入会することで健診や予防接種といった業務委託が増え、クリニックの収益化につながりやすくなります。また、診療の機会も増え、クリニックの認知力拡大も期待できるため、加入の有無に限らず、挨拶をかねて、一度足を運んでみましょう。
クリニック開業コンサルタントへの相談は必要?
開業の進め方やさまざまな手続き、経営方針などに不安がある方は、開業コンサルタントにサポートを依頼するのもひとつの方法です。
費用はかかりますが、クリニック開業に特化した実績のあるコンサルタントに任せることで、自身の業務に専念できるため、安心して開業できるでしょう。
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まとめ
今回、クリニック開業の流れとスケジュール、必要な資金の目安、開業の際の注意点を解説しました。事前に流れや必要な手続きを把握し、スケジュールに沿って進めていけば、スムーズな開業につながるでしょう。
とはいえ、自身の医師業務のかたわら、開業準備を進めるのは困難なケースが少なくありません。必要に応じて、コンサルタントのサポートを受けることも検討し、余裕を持った開業準備を進めていきましょう。
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